今日が最後の日みたいに生きる、毎日、デンマークで。

デンマークでの学生生活の日々の記録。

コペンハーゲンマラソン2015

デンマークに来ると決めた時から挑戦しようと思っていたコペンハーゲンマラソンの日がやって来た。

あまり長い距離を走っていないのが不安要素だったけど、まずは楽しんで走ること、自己ベスト更新できたら最高だけど、最低でも4時間半切れたらいいな、と思って臨んだ。

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会場には一時間前に到着。トイレに行列が出来てないことに衝撃を受けた。これまでのフルマラソンではトイレの行列のせいで、スタートに遅れたことすらある。今回はスタートまでに3回もトイレに行けた。そして、男性用のトイレで急所のみ便器に入れて用を足すタイプのトイレにも驚き。ついたてもなく、5、6人の男性が円になって同時に用をたしている。。。 

スタート30分前にバナナを食べて、トイレに行ってスタート地点に並ぶ。目標タイムが書かれた風船を襟に結びつけているペースメーカー4人が横一列に並んでいて、風船がプカプカしている。ほのぼのする光景。そして周りは背の高いデンマーク人。すでに気分が高揚して泣きそうになるのは、なんの感情なのか自分でもよくわからない。『いよいよだー』なのか『うれしい!』なのか。あまり気負わずにスタートしようと思った。

スタートのカウントダウン、いよいよスタート。
歩幅が違うデンマーク人たちの中で、焦らないようについて行く。
ペースメーカーについて行くのは初めての経験だけど、みんなで固まりになって走るのは練習みたいでほっとする。取り敢えずこれにずーっとついていけば4時間半は切れる。天気も良くて日差しが強いので暑いくらい。沿道の応援にはもちろんデンマークの国旗がたくさん。DJブースから流れるダンスミュージックにテンションが上がる。聞こえてきたシャキーラの"Today is your day, I feel it!"に、なんだかグッときた。
10kmまではウォームアップだと思うことにしていた。走りながら給水する作戦により、10km手前でペースメーカーを追い越した。体が温まって、調子もすごく良くて沿道の12km...14kmの表示があっという間にすいすい流れていった。そうすると欲が出てきて、4時間20分のペースメーカーに追いつきたいと思った。
ペースが10秒/km違うので追いつくとなると結構ハードだけど、『4:20』の蛍光イエローの風船を目指してペースを上げる。
昨日買ったエネルギージェルをスタート1時間後、2時間後、と摂取した。ものすごーく甘くて水飴くらいの硬さだから、なかなか喉を通らない。だけど、『1時間後の自分がスタミナ切れしないため』と思って食べる。

ハーフまでは調子よくペースを上げることが出来た。タイム自体は全然速くないけど、同じペースで行けば自己ベスト、でもこのまま行けるか。。。
給水では足が痛くならないように太ももに水をたくさんかけて、口をゆすぐ程度にだけ水を飲む。二回に一回フルーツの給食があって、私は食べなかったけど、オレンジのいい匂いでリフレッシュ出来た。止まる人が多い中、スピードを緩めないで給水所を通過すると、一気に順位が上がるのが爽快。
ゼッケンに名前が書いてあり、沿道の人が一度だけ私の名前を呼んでくれた!間違えてたけど。でもすごく嬉しかった。
所々にある石畳で脚がダメージを受けそうだったので、余裕のある内は走りやすい道を選んだ。
アマリエンボー宮殿の横を通過する26km地点。数百m先に見える蛍光イエローの風船が、近づいたり遠ざかったり。それに追いつくのを目標にペースを上げて来たけど、辛くなってきた。
10kmから30kmまではハーフマラソンのレースだと思って走ろう、と決めていたけど、そのハーフマラソンのゴールの前に疲れ始める。初マラソンの時に最初飛ばしすぎたために28km位から脚が動かなくなった悪夢が何回も脳裏に浮かぶ。
前半は、『どうしよう、楽だ!デンマークの森と坂道で脚が鍛えられたかも⁉︎』とか思ってどんどんスピードを上げたけど、調子に乗って失敗だったなー、と弱気になる。
ジェルを無理矢理食べて、iPodをつけて気持ちをあげる。

だれかによると、マラソンは“もう走れない、と思う脳をなだめるスポーツ”らしい。その言葉を何度も思い出す。
私の歩幅が狭くなって、人に追い越されていくのを見て止まりたくなる。
1kmごとのラップタイムがどんどん遅くなっていくのを見て、やめたくなる。
こんなにペースが落ちてしまって、すぐ後ろに4:30のペースメーカーが来てるんじゃないか、と恐怖を感じる。
前回のフルマラソンのいいイメージが頭にあったから、30km過ぎでこんなに疲れてることを予測し忘れていた。軽くパニックである。
まだ10kmある、こんな状態で10kmも走るの嫌だ、ここでやめられたらな、そればっかり考える。
その時、救護員に両脇を抱えられて道路に仰向けに倒れている女の人がいた。彼女は大きな声で泣いていた。沿道の人の中には、そんなに泣く?って思った人もいるかも知れない。でも私は、『もし自分がここでリタイアしなきゃいけなかったら』と、彼女の無念さを想像できた。あの人の分も走ろう。
辛い時期を過ぎて、またランナーズハイになったりしないかなと願ったけど、そうはならなかった。
脚は痺れて来て、自分の脚じゃないように感じ始めた。一回給水で止まったら、ずっしり重さを感じて、止まっていたらもう走り出せない気すらして、慌てて走り出した。
前半と同じコースも何ヶ所かあって、元気だったころの自分が懐かしく思えた。調子に乗った自分が恨めしかった。
沿道のダンスミュージックにも疲れた脳みそが一層消耗させられた。

35km地点からは断片的にしか記憶がない。
沿道から“Du ser god ud!”(かっこいいよ!)という声がたくさんかけられる。
時々歩幅を広げて走ってみたり、腕を大きく振ってクロスカントリーみたいな動きで走るようにした。
3時間45分時点で、4本目のジェルを食べる。喉は渇くし、余計な動作は一切したくなかったけど、45分後の自分の脳にエネルギーを。
日差しが強くて日陰に行きたいけど、その動きすらもうしたくない。
前半に一旦自分が抜かした見覚えのある人達が、自分を追い抜かして行く。もう闘志は湧いてこなくて、自分が少しずつでも前に進んでいることだけ願う。

4時間経過した時に、『もうコペンハーゲンマラソンを走れるのはたった30分だけなんだよ!』と自分を奮い立たせる。ペースが上がったわけじゃないけど、そのことを思い出せたことは良かった。
何回も後ろを振り返って、ペースメーカーの風船が見えないことを確認する。
トイレに行きたい気がしたり、お腹が痛い気がしたけど、脳みそに『全部気のせい!』と言い聞かせた。
前半ビュンビュン下った坂と同じ坂が、今は膝に響く。

40kmを過ぎて、残り2kmちょっとの距離になっても、そのわずかの区間ペースをあげようとする力が残っていなかった。
最後の力を振り絞んないと、終わってから後悔するだろうと予測出来たけど、もういい、とりあえずゴール出来ればという気持ちになっていた。
でも41kmを過ぎた時、4:30の集団がすぐ後ろに来たことに気づいた。
たらたら走っていた私にとって、彼らのペースはものすごく速く感じた。
残されている力も少ない私に、ギアを入れ替えて、彼らについて行くのはすごく辛いことだし、やりたくなかった。でも、すんなり抜かされてどんどん彼らに離されて行くことを想像したら、絶望だった。もうなんでもいいからついて行くことにした。というか彼らの波に巻き込まれる形になった。
1kmちょっと走る間、何回も無理だと思った。
そして、最後の直線。ゴールが見えた。ペースメーカーがサッといなくなったのがかっこよすぎた。500m先の“MÅL”という字から一瞬も目を離さないで、それが近づいてくることだけ見ていた。なかなか近づいて来ないけど、本当に目の前にそれがある。じわじわと嬉しさがこみ上げてくる。
ゴールの瞬間はガッツポーズしちゃったけど、他の人は淡々とゴールしてた。カルチャーショック。
ギリギリ4時間半を切れた。。。ペースメーカーのおかげ。お礼を言いたい。
最後に根性を出してついて行けたのも良かった。もし諦めてたら、ヘタレのレッテルを自分に貼らなきゃいけないとこだった。
自己ベストは切れなかったから、達成感とか感動よりはほっとして、『終わったー、辛かったー』という気持ちが大きかった。
脚が痛すぎて、ふらっふらの状態でメダルとバラを受け取って、水を1リットル一気飲みして、ヨーグルト、エナジーバーやパンをすごい勢いで食べた。ノンアルコールビールが配られてて、二口くらい飲んだけど、うまーい。

コース全体は平坦で、同じ所を前半と後半2回走る場所も結構あって走りやすかったと思う。
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これ、鳴らしたかった。。。
けど、この一年のデンマーク生活でも走力を維持出来ていたってことにはまあまあ満足。
何より、コペンハーゲンマラソンを走ったということが、私にとって大きな意味を持つ大会だった。